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豪腕真黒男べー

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「術競べ」(二)  作 幸田露伴
石部金左衛門「だいぶ冷えますることでござりまするが、まだご書見でならせられまするか。」

若殿抜麿「おぉ金左衛門(きんざえもん)か、何か用事か。」

金左「イヤご書見中をお妨げ致しては相済みません。しかし夜に入ってまでのご勉学には金左衛門も、ことごとく感服つかまつります、当世一般とは申しながら、恐れ入った事でございまする。」

抜麿「何もそう感服してもらわんでもよい。学問というものは一体面白いものだからナ。」

金左「はッ。恐れながらその、学問を面白いものと仰せられるのが実にありがたいことでございまして、金左衛門いよいよもって一方ならず感服つかまつりまする。失礼ながらお読み差しになりおりまするのは何の書でございまして?」

抜麿「ム、これか。これは最新のヒプノチズムの書だナ。」

金左「ヘェエ。金左衛門西洋の言葉はいっこうに解りませぬが、ヒプノチ‥‥とか申しますると、何の意義(わけ)でございまするので?」

抜麿「そうさナ、まず一般に催眠術と訳しておるナ。」

金左「ヤ、催眠術の書をお読みになっていらせられましたので!」

抜麿「何も左様に仰山に驚くことは無いではないか。」

金左「はッ。ではござりまするが恐れながらそれならば申し上げなければ相成りませぬ。実はかく人静かなる折りを見てお目通り致しましたのも、その事につきまして申し上げたくてでございました。恐縮ながら一応お聞き取り下されまするように。」

抜麿「フフム。何と申す金左衛門。催眠術について言ってみたいことがあると申すのであるか。遠慮はない、申してみい、聞いて遣わす。」

金左「はッ。まことにありがたいことで。しからば申しまする。恐れながら催眠術とはキリシタンバテレンの邪法の類で、甚だもって怪しからん義と金左衛門愚考つかまつりまする。しかるに承り及びますれば御上におかせられましては、大金をもってドイツ帰りの術者よりご伝授を受けさせられたるの由にて、それより深くお心をその事に傾けさせられ、日夜に魔法のご修行をばお積みなさるるやのご様子、全くもってご本心より出でたることとは金左衛門は存じませぬ。日頃ご学問にお凝りなされたるあまり天魔に魅入られたまいて、かようの事をお好みに相成る義にも立ち至られたかと存じまする。」

抜麿「これ金左衛門何を申すのだ。催眠術というものは決して左様の分けのものでは無い。しかるべき理があってしかるところの心理的現象で、最も研究を値するところの深奥の道である。であるによって予もこれを研鑽しておるのだ。決して危険または有害の事では無いから予の自由に任せておけ。」

金左「いや、ご自由にお任せ申し上げる分けにはどうしても相成りません。あくまでご諫言を申し上げてお思い止まりになって頂きませねば、君ご幼少よりお付き申したる金左衛門、面目もござりませぬ。有害の事では無いと仰せられまするが、左道邪法をお学びになってはよろしいことはござりますまい。既にご承知でもございましょうが聖人のお言葉にも、異端を攻むるはこれ害なるのみとございますれば何卒なにとぞ速やかに魔法の書共をお焼き捨て相成りまして、ふたたびおん顧みこれなきようご断念遊ばされたく、金左衛門ひとえにこの義務用いを願い上げ奉りまする。今日も既に物陰にてお端共の申すを聞きますれば、今にもまた君の魔法の為のご用仰せつけらるるかと、殊のほかに恐怖も仕り、かつ迷惑も仕る様子、昨年末お端共の中にて喧嘩悶着致し、ついに一名お暇下さるるよう相成りたるも畢竟は由無きおん物好き故でござりますれば、左様の義にお心をお寄せ相成るはお家ご擾乱の元と存知奉りまする。今にして早くおん思い捨て相成らぬにおいては、後害計り難き義でございますれば、新年早々ではございまするが御面を冒してご諫言申し上げまする。何卒ぴったりと左様のおん物好きご廃止あらせらるるようご賢慮の程を願わしゅう存知たてまつりまする。」

抜麿「これやかましいわ金左衛門、制しても制しても予の声を耳にも入れず何を一人でしゃべっておる?貴様のような学術的趣味の解らぬ者には申し聞かすも難儀であるが、催眠術とは決して魔法でも無い左道でも無いから、安心致すがよい。」

金左「とばかり一口に仰せられましても。」

抜麿「不安に存ずると言うのだろうがそれは知らんからだ。何も薬を用いるでは無し、仕掛けを用いるでは無し、危険を起こすべきタネは何も無いのであるから、心配する角は更に無いでは無いか。」

金左「しかし御上におかせられまして印を結び呪文を唱えられますると、術をかけられましたるものは心神暗くなりまして、ついに眠気を催し我を忘れましたる挙げ句、御上の命ぜられますることは如何様の儀でも致しますると承りましたが、右は事実のことでござりましょうかいかがで。」

抜麿「ヤ、それはもうその通り、奇々妙々である。白湯を与えて酒だと申せば飲んで酔いを発する、灰を与えて砂糖だと申せば舐めて甘いと申す。実にそれは神変不可思議のものである。金左衛門その方に法を施して遣わそうか。」

金左「どういたしまして、まっぴら御免下さいますように。」

抜麿「イヤ、よいわ、掛けてやろう、さあ掛けて遣わそう。そうすると貴様も催眠術を魔法だなぞと申すそんな頑迷の事を申して意見立てを致すような下らぬ事は皆忘れてしまう。さ、掛けて遣わそう、もちっと進め。」

金左「と、と、とんでも無い事でござりまする、怪しからん事で。」

抜麿「イヤ、掛けてやろう、掛けてやろう、それがよい金左衛門。別に苦しいことでも無し、何ともなくってそれでその方の望むことを遂げ得させる。天に上りたくば天に上らせてやる、空を飛びたくば飛ばせてやる。」

金左「ウーン。」

抜麿「何だ、その様な恐ろしいうなり声を出して。」

金左「ヤ、どうも怪しからんことを仰せられまする。いよいよもって魔道ご執心の余り、いささかご逆上の気味と相見えまする。天に上らせ空を飛ばすなどと、左様の事が何として出来ましょう。」

抜麿「イヤ、論より証拠だ、出来るから奇妙である。さあ貴様に掛けて催眠術の奇特を眼前に示してやろう。」

金左「どう仕りまして、怪しからん事で、実に怪しからんことで。いよいよもって催眠術は魔道に疑いござらん。正法に奇特無しと申す言葉の裏を参る事でござれば、その奇特の有ると仰せらるるだけに合点がまいりませぬ。金左衛門どうあってもお止め申さねばなりませぬ。」

抜麿「エェくどくどと申してうるさいジジイである。‥‥よしよし、嚇してやろう。」

金左「イヤ何となされまする?その様にランプを暗くなされまして!」

抜麿「……‥」

金左「その様なお真面目な恐ろしいお顔をなされまして金左衛門をお睨みになりまして。もしやこれは魔術をお掛けに相成るのではございませんか、不気味でござりまする!」

抜麿「もとよりである。もう二三分通りは掛かっておるぞ金左衛門。」

金左「ヒャア、これは怪しからん、襟元がぞくぞく致しまする!南無八幡大菩薩、摩利支天神!」

抜麿「それいよいよ掛かって来たぞ、どうだ金左衛門!。ビールビールスッポン、アアワーブクブク、ノーンダラヨカラウ、ウマカラウソハカ、ゴクリゴクリゴクリ。」

金左「これはたまらん、異な心持ちになって参った。魔術を掛けられては金左衛門一生の瑕瑾になる、逃げるに越した事は無い!」

抜麿「これ何処へ参る?金左衛門、逃げてはならんぞ。」

金左「摩利支尊天、摩利支尊天。」

抜麿「待て待て金左、掛けて遣わすぞ金左。ビールビールスッポン。‥‥」

金左「摩利支尊天、摩利支尊天。」

抜麿「待て待て金左。アアワーブクブク、ノーンダラヨカラウ。」

金左「摩利支尊天摩利支尊天」

抜麿「ビールビールスッポン。」

金左「摩利支尊天摩利支尊天」

抜麿「ビールビールスッポン。」

「術競べ」 | 2010/09/13(月) 11:35 | Trackback:(0) | Comments:(0)
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