金左「結局は益無き邪法をお物好きに相成りまするより、左様の事も起こりまするので、金左今日は死を決してお諫め申す以上は、是非とも今後催眠術はお禁止になりまするように願いまする。」
抜麿「またしても邪法呼ばわりをするか、邪法では無いと申すに。」
奇之助「石部さん、それは貴方が知らんからで。」
金左「イヤ何と仰ってもいけません、催眠術などということは在るべからざることで、全く根元は天草残類の妖法でござりましょう。」
抜麿「何もお狐の事から北利氏とちょっと悶着を致したとて、それももう氷解致して見れば何でも無いのだから、左様に咎め立てを致さんでもよいことでは無いか。」
金左「イヤそうは成りません、是非にお思い止まりを、北利様も何ご不足無いご身分でお道楽もござろうに、催眠術は悪いお道楽でございまする。お廃止なさいませ。」
抜麿「うるさいないつまでもグズグズ申すとまた術を掛けるぞ。」
金左「イヤ、今日は覚悟して参った以上はもう驚きません、死を決してご諫言差し上げるつもりの石部金左衛門、金鉄の心でございまする。」
抜麿「何だ、掛けられても恐れぬと申すか。」
金左「まったく恐れませぬ。死を決した以上は何が怖うございましょう!催眠術でもガマの術でも邪は正に勝たずでございます。金左今日は覚悟を致しておりまする。」
抜麿「ヤ、面白い。それなら貴様もしこの術に掛かったら何と致す。」
金左「その時は催眠術に降伏致すでございましょう。ただし掛かりませんでしたらば若殿も北利様も術をお捨てになりますか。」
抜麿 奇之助「オォ、十分に術を行っても掛からなかったら貴様の言に従う。」
金左「よろしゅうござる、その儀ならばお掛けなされませ、覚悟致しました。さあ前からでも後ろからでもお掛けなされませ。ちゃんと袴に手を入れて盤石と座りましたる上は、金左悪びれは致しませぬ、ご存分にお掛けなされませ。金左は師匠より皆伝を受けましたる小野派一刀流の気合いをもって身を守りまする!キリシタンバテレンの邪法に屈するごとき事は毛頭ござらぬ。」
抜麿「その広言は後で致すがよい、今思い知らせてやる。」
奇之助「僕がまず掛けましょう、僕のが早く掛かるから。」
抜麿「イヤ、私が先へ掛けましょう。エヘン、ウルマノヲトコハ、イモクテネー、コクリノヲトコハ、ババスーテネー、トラネルサウネルソッパネルー、トンネルバンネルフランネルー、ウトーリ、ウトーリ、ヒナタネコー。ウルマノヲトコハイモクテネー、コクリノヲトコハババスーテネー。‥‥イヤ恐ろしい爛々たる眼を剥いて予を睨みおるナ。ウルマノヲトコハイモクテネー。ヤこ奴なかなか頑強に抵抗するナ、ウルマノヲトコハイモクテネー‥‥。」
金左「これは怪しからん、眠くなって参った。ヤ、まぶたが大分に重くなってまいった。残念なり心外なり、小野派一刀流が催眠術に屈しては。ムムーッ。」
抜麿「しめたぞ、それまぶたが下がって来たぞ、ウルマノヲトコハイモクテネー、」
金左「これは怪しからん、たまらなく眠くなって来た。エイ、掌(て)の中に小刀を握ってきたはこの時の為である、是非に及ばん袴の下で膝に突き立て、痛みを持って眠りを忘れよう。エイ、ブツリ、ア痛!ア痛!」
抜麿「ヤ、また恐ろしい眼になって予を睨みおる。どうも剣術をやった奴の眼は奇妙に座っていて怖いナ、ウルマノヲトコハイモクテネー。」
奇之助「朽藁さん負けてはならん、僕も加勢する。ダチイキコツ、ネケンクジリンル、ダチイキコツ、ネケンクジリンル。」
金左「サァ何人でも来い、邪は正に勝たずだ。ブツリ、ア痛!ア痛!」
抜麿「ウルマノヲトコハイモクテネー‥‥」
奇之助「ダチイキコツ、ネケンクジリンル。」
抜麿「ウルマノヲトコハ‥‥」
奇之助「ダチイキコツ、ネケンク‥‥。」
金左「ブツリ、ア痛!」
抜麿「ウルマノヲトコハ‥‥どうも頑強な奴だ。非常にこっちが睨まれるので辛くなって来た。」
奇之助「どうも偉い奴だ、ダチイキコツ、こっちが疲れて来た。アァ恐ろしい眼だ。」
金左「しめたッ、敵は二人とも気の衰えが募って来た!剣術ならここでもって真っ二ツにしてしまうのだが。」
抜麿「ウールーマーノー‥‥アァ疲れて来た。」
奇之助「ダーチーイーキーコーツー‥‥アァくたびれて来た。恐ろしい顔だ、青く光っている!」
金左「此時(ここ)だッ。エーイッ。」
抜麿 奇之助「ヒァーッ。」
金左「ア、思わず知らず発した一刀流の気合いでもって、魔法使いは二人とも気絶してお仕舞いになった!お釜殿お釜殿水を持って来て下され。イヤ活を入れた方が早かろう。ヤァ、エイッ。」
抜麿「ウーン、ア痛、」
金左「ヤァ、エイッ。」
奇之助「ウーン、痛いッ。」
金左「お二人ともいかがでございまする?」
抜麿 奇之助「ウー。」
金左「自今断然催眠術のお道楽はお廃止になりまするように。」
抜麿 奇之助「ウ、ヘーッ。」
金左「もしも再びお用いになりまするならば石部金左衛門何時でもお相手になりまする。」
抜麿 奇之助「イヤもう催眠術をおもちゃにするのは止す。やはり写真や玉突きの方がよいからそれにする。」
(終わり)
抜麿「またしても邪法呼ばわりをするか、邪法では無いと申すに。」
奇之助「石部さん、それは貴方が知らんからで。」
金左「イヤ何と仰ってもいけません、催眠術などということは在るべからざることで、全く根元は天草残類の妖法でござりましょう。」
抜麿「何もお狐の事から北利氏とちょっと悶着を致したとて、それももう氷解致して見れば何でも無いのだから、左様に咎め立てを致さんでもよいことでは無いか。」
金左「イヤそうは成りません、是非にお思い止まりを、北利様も何ご不足無いご身分でお道楽もござろうに、催眠術は悪いお道楽でございまする。お廃止なさいませ。」
抜麿「うるさいないつまでもグズグズ申すとまた術を掛けるぞ。」
金左「イヤ、今日は覚悟して参った以上はもう驚きません、死を決してご諫言差し上げるつもりの石部金左衛門、金鉄の心でございまする。」
抜麿「何だ、掛けられても恐れぬと申すか。」
金左「まったく恐れませぬ。死を決した以上は何が怖うございましょう!催眠術でもガマの術でも邪は正に勝たずでございます。金左今日は覚悟を致しておりまする。」
抜麿「ヤ、面白い。それなら貴様もしこの術に掛かったら何と致す。」
金左「その時は催眠術に降伏致すでございましょう。ただし掛かりませんでしたらば若殿も北利様も術をお捨てになりますか。」
抜麿 奇之助「オォ、十分に術を行っても掛からなかったら貴様の言に従う。」
金左「よろしゅうござる、その儀ならばお掛けなされませ、覚悟致しました。さあ前からでも後ろからでもお掛けなされませ。ちゃんと袴に手を入れて盤石と座りましたる上は、金左悪びれは致しませぬ、ご存分にお掛けなされませ。金左は師匠より皆伝を受けましたる小野派一刀流の気合いをもって身を守りまする!キリシタンバテレンの邪法に屈するごとき事は毛頭ござらぬ。」
抜麿「その広言は後で致すがよい、今思い知らせてやる。」
奇之助「僕がまず掛けましょう、僕のが早く掛かるから。」
抜麿「イヤ、私が先へ掛けましょう。エヘン、ウルマノヲトコハ、イモクテネー、コクリノヲトコハ、ババスーテネー、トラネルサウネルソッパネルー、トンネルバンネルフランネルー、ウトーリ、ウトーリ、ヒナタネコー。ウルマノヲトコハイモクテネー、コクリノヲトコハババスーテネー。‥‥イヤ恐ろしい爛々たる眼を剥いて予を睨みおるナ。ウルマノヲトコハイモクテネー。ヤこ奴なかなか頑強に抵抗するナ、ウルマノヲトコハイモクテネー‥‥。」
金左「これは怪しからん、眠くなって参った。ヤ、まぶたが大分に重くなってまいった。残念なり心外なり、小野派一刀流が催眠術に屈しては。ムムーッ。」
抜麿「しめたぞ、それまぶたが下がって来たぞ、ウルマノヲトコハイモクテネー、」
金左「これは怪しからん、たまらなく眠くなって来た。エイ、掌(て)の中に小刀を握ってきたはこの時の為である、是非に及ばん袴の下で膝に突き立て、痛みを持って眠りを忘れよう。エイ、ブツリ、ア痛!ア痛!」
抜麿「ヤ、また恐ろしい眼になって予を睨みおる。どうも剣術をやった奴の眼は奇妙に座っていて怖いナ、ウルマノヲトコハイモクテネー。」
奇之助「朽藁さん負けてはならん、僕も加勢する。ダチイキコツ、ネケンクジリンル、ダチイキコツ、ネケンクジリンル。」
金左「サァ何人でも来い、邪は正に勝たずだ。ブツリ、ア痛!ア痛!」
抜麿「ウルマノヲトコハイモクテネー‥‥」
奇之助「ダチイキコツ、ネケンクジリンル。」
抜麿「ウルマノヲトコハ‥‥」
奇之助「ダチイキコツ、ネケンク‥‥。」
金左「ブツリ、ア痛!」
抜麿「ウルマノヲトコハ‥‥どうも頑強な奴だ。非常にこっちが睨まれるので辛くなって来た。」
奇之助「どうも偉い奴だ、ダチイキコツ、こっちが疲れて来た。アァ恐ろしい眼だ。」
金左「しめたッ、敵は二人とも気の衰えが募って来た!剣術ならここでもって真っ二ツにしてしまうのだが。」
抜麿「ウールーマーノー‥‥アァ疲れて来た。」
奇之助「ダーチーイーキーコーツー‥‥アァくたびれて来た。恐ろしい顔だ、青く光っている!」
金左「此時(ここ)だッ。エーイッ。」
抜麿 奇之助「ヒァーッ。」
金左「ア、思わず知らず発した一刀流の気合いでもって、魔法使いは二人とも気絶してお仕舞いになった!お釜殿お釜殿水を持って来て下され。イヤ活を入れた方が早かろう。ヤァ、エイッ。」
抜麿「ウーン、ア痛、」
金左「ヤァ、エイッ。」
奇之助「ウーン、痛いッ。」
金左「お二人ともいかがでございまする?」
抜麿 奇之助「ウー。」
金左「自今断然催眠術のお道楽はお廃止になりまするように。」
抜麿 奇之助「ウ、ヘーッ。」
金左「もしも再びお用いになりまするならば石部金左衛門何時でもお相手になりまする。」
抜麿 奇之助「イヤもう催眠術をおもちゃにするのは止す。やはり写真や玉突きの方がよいからそれにする。」
(終わり)