お狐「不景気で不景気で仕方なくって、ろくな仕事も無いから遊んでいるよりゃあましと、こんなところへ猫を被って奉公住みはしたものの、間がよかったら若様でも引っ掛けて強請(ねだ)る種子をこしらえて、暖まろうと思ったその甲斐も無く、学問に凝ってばかりいる無類の堅物なので、こりゃあお給金ぎりじゃあどうも始まらない、まだしも安請け合いでも稼いだ方が正月だけによかったか知らんと、内々はちっともう後悔していたところ、妙なことも有るもので、魔法に若様が凝っているとはホントに希代な話だが、いい物好きな馬鹿様をいい加減にあしらって、どうかしてちっとやそっとは巻き上げたいものだ。昔話にある楊子隠れじゃあ有るまいが、魔法だなんて馬鹿馬鹿しい、どんなことをするのだろう。ホントに身の楽な人は下らないことをしたものだ。だがまあ何でもいい、出たとこ勝負で、大抵にあやなして多少銭(なにがし)かにしてやらなくちゃあ。どれどれ一つ若様の魔法を拝見と出かけようかネエ。チェッ誰か見ていて私の芸風を褒めてくれないかしら。こう見えてもちょいとお高い役者のお狐さんのする仕草にゃあ、かなり好いところがあるつもりなのだから、見物の無いなぁちともったいない様な気がするよ。ホホホホホホ!」